小倉北区篠崎1丁目7-1
蛇の枕石
篠崎八幡神社
まだこの世を神様が治めておられた頃のこと、現在の小倉北区篠崎八幡神社附近を流れる紫川に、蛇渕と呼ばれるところがありました。
この蛇渕には、いつの頃からか大蛇が住みつき、次から次へと村人の体にまきついてはケガさせたり命からがらの目に合わせていました。村人は困り果て、集まっては「どうしたものかのう。これでは夜もおちおち寝ておられんわ。あの大蛇をおとなしくさせる方法はないものかのう。」と嘆いていました。
ある日、また村人たちが集まって嘆いていると、どこからともなく「社を祀れば、きっと皆の悩みは消えるであろう。」という声が聞こえてきました。そこでさっそく村人たちは社たてて祀りました。ある日渕の上に紫の雲が棚引き、それ以来ぷっつりと大蛇はおとなしくなり、村人たちは安心して暮らせるようになったということです。この社は八雲社といい今でも篠崎八幡神社にあります。
さて、すっかりおとなしくなった大蛇は、村人たちを驚かすこともなく、蛇渕で静かに暮らしておりました。
でも、いかに蛇とはいえ、年頃になりますと人恋しくてなりません。
くる日もくる日も、ひとりぼっちで、ため息ばかりついておりました。
ある日、あまり蛇渕にひっこんでいるから気がまぎれないのだと思い、川下の方へ遠出してみる事にしました。
ポカポカと暖かく気持ちの良い日に川を下っておりますと、貴船渕のあたりで美しい女蛇に出会いました。大蛇は、雷に打たれたようになってすっかり恋におちてしまいました。
そうなると、今までのひとりボッチの生活が余計に淋しくてなりません。毎日毎日どんなに風が吹こうが、雨が降ろうが女蛇のところへ逢いにいきました。
女蛇の方も、大蛇をすっかり好きになり、とても仲良く過しておりました。
そうしたある日、女蛇は貴船神さまに呼ばれて、急ぎのお使いを言いつけられました。行き先は海の向こうの藍の島です。急ぎのお使いだったので女蛇は大蛇に逢わないまま出かけていきました。
そうとは知らない大蛇はいつものとおり貴船渕にやってきてみると、女蛇の姿が見えません。
待っても待っても女蛇は帰って来ず、大蛇は恋しさに、とうとう石を枕に大声でなきはじめました。涙はとめどなく流れ、石はぐっしょりと濡れました。かわいそうに思った八雲社の神さまのお導きで大蛇は竜神となり天にのぼっていったということです。
大蛇が頭をのせて泣いた石は「蛇の枕石」と呼ばれ、今では八雲社と同じく、篠崎八幡神社の境内に移されています。またこの石は別名「夜泣き石」とも言われ、赤ちゃんが夜泣きをして困るときに親たちがこの石に祈願すると、夜泣きが止まると信じられているということです。